熊野筆 と 竹田ブラシの製造に関する考え方
おそらく、ここをご覧になる皆様ならば

ほぼ大丈夫だと思いますが、

時々、こんな勘違いする方 や それを誘発する方もいるようです。

■嘘のイメージの例 (羊頭狗肉の羊頭部分)


「凄い技術と知識を共有する凄い熊野筆職人」、もしくは、

それを統括する「職人組織」が存在して、

各会社は、彼らから筆を買って、自社デザインで売っている。

だから中身は一緒♪


さて、前置きはここまでにして本題に入ります。



「熊野筆」とは、

「熊野地区で製造された筆」(穂先部分の製作全工程 含)

という意味です。

現在は、それ以上の意味も、それ以下の意味も
残念ながらありません。

もう少し具体的に説明しますと、


製造方法についての共有の知識や技術、

最低限の品質規定や取り決め は ほとんど存在しません。

※書筆に関しては製造方法についての共有技術や知識がある程度は存在し、
その他の分野にも応用されることは、もちろんあります。


というのも・・・・

現在は、化粧ブラシ、画筆、胎毛筆、洗顔ブラシ 等
色んな用途に応用されており、実際は、それぞれに専門化/専業化しております。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、
明治時代以降、 「量産技術に特化」したのが「熊野筆の技術」です。

つまり、
「元の技術をベース」にするならば、
それぞれの分野に特化する為には、
それぞれの会社が独自の視点で職人育成や技術開発をする必要があり、
おそらく、それぞれの会社が、そのように進化し続けているものと思われます。

そうなると、逆に、町の組織レベルで、
共通の「品質規定」「製造規定」を設けるのは、
現段階では、非常に難しいようにも見えます。

※実際には、今後のさらなる技術開発や技術の伝達の為には、必ず、必要になると思いますが、
組織単位で系統的に技術を集積/分類するのは、かなりの人材、時間、労力を要するでしょう。

参考までに、弊社はヨーロッパの技術も導入しているので
「熊野筆」にあらずという事を言われた時代もあります(笑)。



ここまでのお話で、少し鋭い方は、

よく使われる例の宣伝文句を思い浮かべ・・・・

このように疑問に思われるかもしれません。




「毛先をカットしない(毛先が残っている)=「熊野筆」なのでは???

ならば、それが、最低限の「熊野筆」の「品質規定」になるのでは??

まあ、当然の疑問なのですが・・・・

町内には、
職人が家族経営を行っている会社や穂先のみを成形している会社だけでなく、
大手企業並に宣伝戦略に特化した会社、量産主体の会社、販売主体の会社、

中国等の海外に業務委託する会社
↑これは、熊野筆(もしくは、それを連想する言葉全般)とは名乗れなくなりました
疑わしい製品/宣伝を見かけた場合は筆組合にご連絡を


など様々で、
町ぐるみとなると意見をまとめる事そのものが難しかったりもするようです。

そして、実は、「毛先をカットする」「カットしない」という定義が、実は曖昧です。
(毛筆の場合、「命毛」がないと使い物にならないので明白なのですが・・・・)

そもそも、大量生産向けの粗悪な原料毛(元々毛先がない)を使用すれば、
「カットの有無」の論議そのものがナンセンスですし。

先に結論の確認ですが、
「熊野筆」には「毛先をカットしない」の「品質規定」はなく、

現在は、ほぼ「自己申告制」です。

※ちなみに、最近、美容業界に関わらず、
誇大広告の「ここまでは大丈夫」の水際がどんどん曖昧になり、
「言ったもの勝ち」の風潮もありますが、
事実と異なる場合は、正式に取り締まりが実施されれば、
景品表示法や不正競争防止法 違反になります。
(この法律すら知らずに宣伝している業者が大半なのが現実です)

実際には、カットした筆や粗いブラシには、
メリット、そして、それを生かす使い方もある為、
イメージ宣伝でそれらを混同しては勿体無いのではないかと思います。

実際、弊社の製品には、粗い毛のラインナップが少ない為、
そういった用途のお客様には対応しきれない事も時々あります。

参考までに・・・
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、
最近は、弊社では、「毛先」を見ていただき、
お客様に、製造業者視点の「見方」を覚えていただくようにしております。
また、同時に粗悪な毛がどれであるかも伝えさせていただいております。
(ご興味のある方は、本社スタッフが常駐する催事にお越しください)

弊社社長 竹田史朗は、
現在、 「熊野筆」商標委員会の委員長をやっており、
町をあげてのシステム作りに取り組んでおります。

ここまでお読みくださるような皆様が、
現在のように「モノの良さを見る眼」を育ててくださり、
そして、「製造元」や「原産地」をシッカリと確認・追求してくださる事そのものが、
我々にとって大きな「追い風」となります。

これからも、是非、ご協力をお願い致します。

■ちなみに、弊社での「カットしない」の定義
@ 使用用途にもよりますが、毛先部分が飛んだものが多く混じる原料毛は、極力、使わない。
A原料毛から成形に至る工程の中で、毛先部分への「刃物による調整」は行わない。
Bそのかわり、綿毛や粗悪な毛は丁寧に予め取り除く。
C-1 成形や仕上げにおいて、肌に当たる部分の毛先部分に「はさみなど」を入れて調整をしない。
C-2 使用用途に応じて、さらに細かく、粗悪な毛は、極力、手を掛けて取り除きながら成形。
(Cは、1、2を繰り返しながら成形するので 弊社では、穂先成形の分業・量産は難しいのです)

■ 弊社の製造に関する考え(そろそろ情報公開しても良いかと思い、公開します)

伝統技術の枠を越えても
品質向上に必要な技術は取り入れる。

実際、熊野筆技術のみだと
化粧筆の分野では世界に全く通用しない現実があります。

純粋に物理的な話ですが、

書筆や和化粧の「水モノ」と
現在の洋化粧の「油/粉モノ」では、 性質が真反対ですので、
全く新しい概念の導入が必要となります。

弊社が1980年代中ごろからヨーロッパに出向き、
研究を重ねておりますのは、上記の理由からです。

もちろん、「熊野筆」の「毛を扱う技術」にも利点がありますので
その点は、うまく利用させていていただいております。

※実は、逆に、ヨーロッパでは、画筆を出発点にしている為、
描き易さには目が向きますが、肌触りには目を向けない現実があります。
※用途や種類によっては、かなり高い技術を持ち、品質も高いです。
 そういった理由から、
フランスの某大女優さんは「肌が痛む」という理由で、
ブラシによるメイクを拒否していたこともあるのですが、
現在、弊社のブラシをとても気に入っていただき、ご愛用いただいております。
この辺も、パリコレなどのメイクをプロデュースする立場の方々から
ご指名を受けるケースが増えている理由でもあるようです。